この記事では分子生物学分野では極めて重要なDNAの変異・損傷について解説していきます。試験でも頻出のテーマなのでしっかりと押さえておきましょう。
核酸塩基の構造
まずは核酸塩基の種類と構造についておさらいしておきましょう。
塩基は窒素含有ヘテロ環化合物のプリンとピリミジンの誘導体です。プリン塩基はグアニンとアデニン、ピリミジン塩基はチミン、シトシン、ウラシルです。非常に重要なのでこれらの構造式は何も見なくても書けるようにしておきましょう。
DNAの変異
DNAの塩基配列変化を伴う変異を突然変異もしくは変異と呼びます。変異の原因としては、複製時のミス、物理的・化学的要因によるDNA損傷、DNAの組換えが挙げられます。
ある塩基に変異が生じ別の塩基になったものを点変異(点突然変異)、一定の領域が付加されたものを挿入、一定の領域が失われたものを欠失とよびます。また、点変異のうちピリミジン同士、プリン同士の変化をトランジション、相互に変化したものをトランスバージョンといいます。2)
これらの変異はタンパク質合成に影響を与えることがあり、点変異によってタンパク質の構造がわずかに変化する場合をミスセンス変異、点変異によって途中で終止コドンが生じる変異をナンセンス変異と呼びます。また、塩基の挿入や欠失によりコドンの読み枠がずれる変異をフレームシフト変異といい、元とは全く違うアミノ酸配列がコードされることになります。
DNAの損傷
DNAが共有結合の変化を伴って構造の変化を起こすことを損傷(DNA損傷)と呼びます。DNA損傷には、塩基除去、塩基構造の変化、二本鎖切断、架橋の4種類があります。
・塩基除去
塩基除去は塩基と糖の間のN-グリコシド結合が切れる現象で、塩基が外れることによりホスホジエステル結合が不安定になりDNA鎖が切れやすくなります。ピリミジン、プリンがないことからAP部位(apyrimidinic apurinic site)と呼ばれることがあります。
・塩基構造の変化 3)
塩基構造の変化にはいろいろな種類があり、脱アミノ化、二量体化、酸化、アルキル化などが挙げられます。試験にに出やすいのは脱アミノ化とピリミジン二量体の形成なのでこれらは確実に押さえておきましょう。
脱アミノ化はシトシン、アデニン、グアニンのアミノ基が失われる現象で、脱アミノ化によりそれぞれウラシル、ヒポキサンチン、キサンチンに変化することになります。
シトシンが脱アミノ化されて生じたウラシルはその後の複製でチミンとして読まれC-T変異をきたすことが知られています。これら脱アミノ化にとって生じる塩基はすべて正常のDNAには含まれていないものなので、その後修復酵素によって認識され除去される可能性があります。
しかしメチル化シトシン(5-メチルシトシン)が脱アミノ化した場合はそうはいきません。5-メチルシトシンはシトシンの5位がメチル化された塩基で、最もポピュラーなエピジェネティックな制御の一つです。5-メチルシトシンが脱アミノ化を受けるとチミンになりますが、チミンは正常なDNAの構成要素であり修復酵素の認識から逃れやすく、最終的にCからTへの点突然変異を起こすことになります。
紫外線(UV)は一般的な環境中の放射線源であり、UV照射はDNA中の隣り合ったピリミジン塩基の間に共有結合性の架橋をつくることでピリミジン二量体をつくります。
原理的にはピリミジンであるシトシン同士、チミン同士、シトシン-チミン間で形成されるが、ピリミジン二量体の多くはチミン同士のチミン二量体である。
・二本鎖切断
電離放射線により糖鎖の損傷や塩基の損傷により生じます。電離放射線の照射では一本鎖切断も生じますが、一本鎖切断が修復されずに、DNAの複製過程に入ると結果的に二本鎖切断が生じることになります。
・架橋
架橋とは二つの塩基間に共有結合が生じたものをいい、DNA鎖間の架橋と、鎖内の架橋があります。
DNA傷害剤
参考文献
1) Bruce Alberts, Karen Hopkin, Alexander Johnson, David Morgan, Martin Raff, Keith Roberts, Peter Walter, 「Essential cell biology 5th ed」,p78, W.W.Norton, (2019)
2),4) 田村隆明,村松正實,「基礎分子生物学」,p82~101,東京化学同人,(2016)
3) Robert A. Weinberg, 「the biology of CANCER 2th ed」,p523~528,Garland Science, (2014)
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