国家公務員試験の専門試験問題は各研究所や大学教授などの専門家から選ばれた「試験専門委員」が作成します。そのため試験専門委員のそれぞれの研究内容や専門分野を分析し重点的に対策することは有効な試験対策になります。
毎年2月1日付の官報にその年の試験専門委員が発表され、このブログでも2022年国家総合職試験(化学・生物・薬学)区分の専門試験問題の作製に関わるであろう試験専門委員を分析し出題予想を立てていました。そこで、この記事ではその予想がどうだったかについて振り返っていきたいと思います。
2022年国家総合職 試験専門委員分析・出題予想 の記事はこちら
試験専門委員の分析では以下の表のように分析をまとめました。2022年度試験で新たに加わった試験専門委員を緑背景で示しています。また、実際に2022年度出題されたテーマを赤字で示しています。
上記の分析をもとに以下の出題予想を立てました。
・神経科学分野(神経の生理学、神経変性疾患)
・循環器分野(心臓血管系の生理、高血圧など)
・エピジェネティクス分野(DNA修飾、ヒストン修飾、SNPなど)
・核酸の性質
・ビタミンなどの栄養素の性質とその効果
・細胞での酸化ダメージ(DNA損傷、DNA損傷修復、放射線生物学関連も含む)
これらをひとつずつ振り返っていきます。
的中 1. 神経科学分野(神経の生理学、神経変性疾患)
神経系に関する出題は薬理学や細胞生物学絡みで良く出題されています。とくに、基本的な神経の整理や変性疾患などは頻出であり要チェックなテーマです。
今年度の試験では1次試験多肢選択問題の薬理学、細胞生物学、二次試験の専門記述の生理学で関連問題の出題がありました。
多肢選択の薬理学では「認知症とその治療薬に関する問題」としてアルツハイマー型認知症の病態生理の知識を問う選択肢やその治療薬の知識を問う選択肢が出題されました。
多肢選択の細胞生物学では「哺乳動物の脳神経に関する問題」として神経細胞の基礎知識やシグナルの伝達に関する知識を問う選択肢が出題されました。
専門記述の生理学は神経系に関する出題でした。中枢神経系、末梢神経系の知識、膝蓋腱反射、多発性骨髄腫などが取り上げられており、神経系に関してしっかりと対策していないと難しいテーマでした。
大当たり‼ 2. 循環器分野(心臓血管系の生理、高血圧など)
今年度の試験では循環器生理を専門とする医療創生大学の斉藤真麻希准教授が新たに試験専門委員に加わっていることから循環器に関する問題の出題を予想していましたが、その読みがぴたりと当たりました。
試験では一次試験多肢選択問題の薬理学、生化学、二次専門記述試験の薬理学で関連の出題がありました。
多肢選択の薬理学では「血液・造血器作用薬に関する問題」として血栓の基礎知識、ヘパリン、エドキサバン、ヒドロキソコバラミンに関する選択肢が出題されました。
多肢選択の生化学では「血流の調節に関する問題」として血管内皮細胞による血管拡張の調節メカニズムの知識を問う出題がありました。
専門記述の薬理学では心不全とその治療薬に関する大問が出題されました。その中で心不全診断のバイオマーカー、治療薬(血管拡張薬、利尿薬、ジゴキシン)の知識を問う出題がありました。
的中 3. エピジェネティクス分野(DNA修飾、ヒストン修飾、SNPなど)
エピジェネティクスに関する問題も毎年小問などで見かける頻出分野です。
今年度の試験では一次試験多肢選択の生化学と発生生物学で出題がありました。
生化学ではメチル化を受けエピジェネティック制御に関わるアミノ酸に関する選択肢、発生生物学では「胚発生過程の細胞分化における遺伝子発現調節機構に関する問題」としてヒストンの修飾、CpG配列のメチル化などの知識が問われる問題がありました。
大当たり‼ 4. 核酸の性質
今年度の試験で新たに試験専門委員に加わった農研機構の岩浦里愛研究員は核酸の物理化学などの分野で実績があり、生化学などでDNAの構造、核酸の安定性など核酸の性質について問う出題を予想していましたが、その読みがぴたりと当たりました。
試験では一次試験多肢選択の生化学、二次試験の専門記述試験の薬化学で関連の出題がありました。
多肢選択の生化学では「二本鎖DNAに関する問題」としてDNA鎖を構成する水素結合やホスホジエステル結合の知識、DNAとRNAの安定性の違いについて問われる場面がありました。
専門記述の薬化学では核酸塩基に関する大問が出題されました。そこではプリンリボヌクレオチドの生合成過程に関する問題やDNA鎖に含まれる塩基対の構造を書かせる問題が出題されました。
的中 5. ビタミンなどの栄養素とその効果
今年度の試験で新たに試験専門委員に加わった明治大学の竹内麻子教授はビタミン(特にビタミンE)や食餌タンパク質を専門に研究していることから食品学や生化学などでビタミンを始め各栄養素の知識が問われる場面があることが考えられました。
試験では一次試験多肢選択問題の食品学、専門記述の食品学で関連の出題がありました。
多肢選択の食品学ではミネラルに関する問題や、油脂・脂肪酸に関する出題がありました。
専門記述の食品学ではタンパク質に関する大問と油脂の酸化に関する大問の出題がありました。タンパク質の大問では食品中タンパク質の変性や酵素反応、アミノ酸価に関する出題がありました。油脂の酸化の大問では、酸化生成物、酸化を促進する食品中微量成分、油脂の過熱によりトリグリセリドからアクリルアミドが生成する過程に関する出題がありました。
的中 6. 細胞での酸化ダメージ(DNAダメージ、DNA損傷修復、放射線生物学関連も含む)
酸化ダメージに関する出題はありませんでしたが、放射線生物学関連の出題予想が的中しました。今年度の試験では放射線生物学・細胞生物学の専門家として新たに量子科学技術研究開発機構の平山亮一研究員が試験専門委員に加わっていました。平山研究員は放射線の細胞レベルへの影響に関した実績があり、放射線被曝によるラジカル発生、DSB発生、DNA修復機構、細胞レベルでのダメージなどの出題が予想されました。
試験では一次試験多肢選択の細胞生物学・放射線生物学、二次試験の細胞生物学で関連の出題がありました。
多肢選択の放射線生物学では「放射線の生物作用に関する問題」の中でラジカルの発生に関連して酸素効果や、SH基をもつラジカルスカベンジャーによる保護効果に関する知識が問われる場面がありました。
また、多肢選択の細胞生物学には細胞死に関連してアポトーシスやネクローシスの知識を問う問題もありました。
専門記述の細胞生物学では動物細胞へ放射線照射をした場合の影響に関する大問が出題されました。そこでは放射線照射により生じるDNA損傷やDNA損傷修復、細胞死に関した問題が出題されました。
2022年国家総合職 試験専門委員分析・出題予想 の記事はこちら
その他
専門試験委員分析・出題予想記事の中でメインの出題予想テーマにはしなかったものの小さく触れた内容などについて紹介します。
〇土壌肥料学・農薬分野
今年度の試験では土壌肥料・農薬分野を担当するであろう試験専門委員が総入れ替えとなっていたのでその出題内容に注目していました。この科目は農業・食品産業技術総合研究開発機構の藤原英司研究員、森本晶研究員、渡邉栄喜研究員が担当することが予想されました。そのため、それぞれの専門に応じて「土壌環境汚染や汚染の分析、農薬などを重点的に学習するとよい」と記載しました。
実際、一次試験多肢選択で環境負荷物質に関する問題、クロマトグラフィーによる残留農薬分析に関する問題、有機リン系農薬に関する問題、パラコートに関する問題が出題されました。
二次試験では土壌微生物に関する大問、農薬の開発に関する大問が出題されました。土壌微生物の大問では、土壌微生物の測定、土壌中の窒素形態変化に関わる土壌微生物、植物と共生系を形成する菌根菌の知識を問う小問が出題されています。農薬の開発の大問中では農薬の研究開発過程や、ピレスロイド系殺虫剤やネオニコチノイド系殺虫剤に関する問題が出題されています。
〇遺伝学分野
遺伝学の問題は主に新しく加わった農業・食品産業技術総合開発機構の松原一樹研究員が担当するものと思われました。そのため松原研究員の実績のある量的形質遺伝やQTLマッピングの内容を確認することをおすすめしていました。
実際、二次試験専門記述の遺伝学で量的遺伝学に関する大問が出題されました。その中でQTLマッピングを説明させる問題も出題されていました。
〇新型コロナウイルスに関連した出題
直接記事では紹介していませんでしたが、昨今の新型コロナウイルスの話題に関連した出題も要チェックでした。今年度の試験でも昨年度試験(2021年度試験)に引き続き新型コロナウイルスに関連した出題が見受けられました。
二次試験専門記述の分析化学では、ウイルス感染症の診断の際のPCR検査後のDNA配列決定に用いる電気泳動に関する知識を問う問題や、イムノクロマト法を用いたインフルエンザウイルス検査の原理を説明させる問題が出題されました。
また、二次試験専門記述の薬剤学では新型コロナウイルス感染症に対するmRNAワクチンに用いられているDDSの脂質ナノ粒子に関連した大問が出題されました。
まとめ
全体を振り返り、試験問題作成者である試験専門委員それぞれの研究内容や専門が色濃く出た問題が多くあることが改めて確認できました。このことから試験専門委員の分析は有効な試験対策になり、効率的に学習を進める助けになります。来年度以降も分析・出題予想記事を作成する予定ですので是非ご活用ください。
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