この記事では2021年度国家総合職試験 化学・生物・薬学区分の出題予想が当たっていたのか振り返っていきます。国家総合職の専門試験の問題はその問題作成者の分析を行うことである程度予想できます。その問題作成者を「試験専門委員」と言い、毎年2月の官報に記載されます。
2021年度試験は次の4分野の出題予想をしていました。
1.神経系 (基本的な構造、生理、神経変性疾患)
2.エピジェネティクス (DNAやヒストンの修飾、がんなどとの関わり)
3.DDS(ドラッグデリバリーシステム)
4.(放射線生物学関連で)放射線による診断、疾患の治療
では、ひとつずつ振り返っていきます。
1.神経系 (基本的な構造、生理、神経変性疾患)
神経系に関する出題は薬理学や細胞生物学絡みで良く出題されています。とくに、基本的な神経の整理や変性疾患などは頻出であり要チェックなテーマです。
神経系に関する出題は、一次試験多肢選択の「薬理学」で出題がありました。この問題では「パーキンソン病とその治療薬」というテーマでその病理や、治療薬の作用機序について問われています。
神経に関する問題は一次試験、二次試験を通してこの一問だけでした。神経系をテーマとしている出題者が多い割には少ないなという印象です。
2. エピジェネティクス (DNAやヒストンの修飾、がんなどとの関わり)
エピジェネティクスも近年毎年のように出題されている非常に重要な分野です。
今年は一次試験の多肢選択、「細胞生物学・放射線生物学」で選択肢の一つで出題がありました。この問題では癌細胞でのエピジェネティックな変化について問われています。
エピジェネティクスに関する出題はこの一問だけでした。
3. DDS(ドラッグデリバリーシステム)
今年度の試験専門委員のひとりである山下親正教授(東京理科大)はピンポイントでDDSを専門に研究しておりそれに関わるテーマの出題が予想されました。試験では、一次試験の「薬剤学・衛生化学」で、「注射剤の添加剤」、「薬物の吸収、分布及び代謝」に関する出題が一問ずつありました。
また、二次試験の記述試験の「薬剤学」では薬物の動態変化や、リザーバー型経皮吸収型製剤の特徴・長所・短所に関する出題がありました。
私は生物系の専門であるため詳しい分析ができませんが、DDSの「薬剤の体内での量的、時空間的な動態のコントロール」という観点からすると出題予想は大当たりだったのではないでしょうか。
4. 放射線による疾患の診断・治療
公表された試験専門委員から、今年の放射線生物学の出題者は、小林泰彦さんと吉井幸恵さんであることが予想されます。二人の専門に共通するテーマとして「放射線による疾患の診断と治療」が挙げられたため、それに関連する出題があると予想していましたが、放射線による診断と治療に関わる出題はありませんでした。しかし、二次試験、専門記述の「細胞生物学」で放射線によるDNA損傷・修復、細胞死など彼らの研究テーマに沿った内容の出題がありました。このことから、問題には出題者の専門や研究テーマが色濃く反映される傾向にあるといえます。
その他
以下では、直接は出題予想をしなかった試験専門委員の分析と、実際に出題された問題を全体を通して振り返ってみたいと思います。
以下の表は試験専門委員分析の記事で用いたものです。それに今年度の試験で出題された内容のテーマにラインを引いています。赤ラインは大問や問題ごとのテーマとして大きく取り上げられたもので、青線は小問や問題の要素として見受けられたものです。
いかがでしょうか。やはり、試験問題には出題者の専門や研究内容が反映される傾向にあると考えられます。少なくとも出題者の専門分野についての基礎的な内容、知識を押さえておくのは有用な被験対策になりそうです。
また、二次試験専門記述の「生化学・分子生物学」でスプライシングの分子機構について問われる問題がありました。この表には記載していませんでしたが、今年の試験専門委員の田中智教授(東京大)はスプライシングを研究テーマの一つとしており、研究室のHPをみていれば対応できたはずです。
さらに、今年度の専門試験にはワクチンや、ウイルス、PCRの原理など、明らかに昨今の新型コロナウイルス蔓延を意識したと思われる出題が多々見られました。専門記述の「遺伝学」では過去にパンデミックを起こしたインフルエンザウイルスを題材にウイルスの性質や、ワクチン製造・接種などの出題もありました。
この傾向は来年度試験でも続く可能性は十分あるので、2022年度試験の受験予定の方はウイルスの知識はしっかりと学習しておく必要があるでしょう。
まとめ
試験専門委員分析を踏まえた試験対策は非常に有用と思われます。
自分の選択予定の科目については基礎的な学習をしっかりと行ったうえで、直前期の対策として試験専門委員の情報をうまく活用していきましょう。
コメント